一般的には相続というと、1人の人が亡くなって、財産を相続することになりますが、被相続人が2人以上同時に亡くなった場合はどうなるのでしょうか。
交通事故など、家族で同時に亡くなってしまう場合もあるでしょう。
ご夫婦で亡くなられたり、親子で亡くなった場合、相続人は誰になるのでしょうか。また、相続税の計算はどのようになるのでしょうか。

同時死亡とは

2人以上の人が、全く同じ時間に亡くなるということはないでしょうし、それを周りが証明することはできないのではないでしょうか。
そのような、死亡の先後が分からない場合、同時に死亡したものとして扱っていいことになっています。これを「同時死亡の推定」と言います。

例えば、Aさんと奥さんが交通事故に遭ったとします。発見された時Aさんと奥さんが2人とも亡くなっていた場合は同時死亡になりますが、Aさんが亡くなっていて奥さんはその時点で生存が確認でき、病院に搬送されたとします。その後奥さんが亡くなったとしたら、それは同時死亡にはなりません。

あくまで死亡の先後が分からない場合に、同時死亡ということになります。

同時死亡かどうかで相続人変わる?

上記の例を見ると、Aさんと奥さんが同時に亡くなるか、それとも違うタイミングで亡くなるか、ということは、とても重要だと分かります。
同時死亡の場合、Aさんの財産は奥さんに相続されることはありません。Aさんの財産はAさんの相続人(生存している相続人)、奥さんの財産は奥さんの相続人、にそれぞれ相続されることになります。

例えば、Aさんと奥さんの間に子供がいれば子供がAさんの財産と奥さんの財産を両方相続することになります。子供がいなければAさんの財産はAさんの両親、いなければ祖父母、それもいなければ兄弟姉妹が相続人になります。奥さんの場合もそうです。

しかし同時死亡でない場合、Aさんの死亡時点で奥さんの生存が確認されているので、Aさんの財産はいったん相続人である奥さんと子供が相続することになります。その後、奥さんも亡くなっているので、奥さんが相続した財産も含め、子供が再度相続することになります。

それぞれの場合を、実際に財産の金額を仮定して見てみましょう。

同時死亡かどうかで、相続税はどう変わる?

ではAさんと奥さんの間に子供が1人いたとして、Aさんの財産が1億円、奥さんの財産が2,000万円あったと仮定しましょう。

同時死亡の場合、子供が両方の財産を相続することになります。Aさんの財産は1億円、奥さんの財産は2,000万円、それぞれを相続します。基礎控除額は3,600万円なので、Aさんの財産の課税対象額は6,400万円、奥さんの財産については基礎控除内なので相続税はかかりません。
6,400万円の相続税は、税率30%、控除額700万円なので、1,220万円が相続税になります。

同時死亡でない場合、いったん奥さんと子供がAさんの財産を相続することになります。
基礎控除額は4,200万円、課税対象額は5,800万円なので、相続税は全体で1,040万円、ぞれぞれ半分ずつ負担することになるので、奥さんの相続税と子供の相続税は520万円になります。ただし、奥さんは配偶者控除によって相続税が0円になるので、子供だけが520万円の相続税を払うことになります。
その後、奥さんのもともと持っていた2,000万円の財産と、相続した5,000万円、合わせて7,000万円を再び子供が相続することになります。基礎控除額は3,600万円、課税対象額は3,400万円なので、税率20%、控除額200万円で、480万円が相続税になります。
子供が最終的に負担する相続税は520万円+480万円で、1,000万円となります。

同時死亡の時と比べると、220万円も相続税に差が出てきます。

生命保険金の受け取りは誰?

同時死亡かどうかで相続人が変わりますし、相続税の金額も変わることが分かりましたが、被相続人が生命保険に加入していて、受取人が同時死亡した場合はどうなるのでしょうか。
受取人が生きている場合、受取人が財産として受け取り、相続税が課税されることになりますが、受取人が同時死亡している場合は受取人の相続人が受取人になります。

例えば、Aさんが生命保険に加入していて、奥さんが受取人になっていたとします。Aさんと奥さんが夫婦で同時死亡してしまった場合、奥さんの相続人が受取人になります。

違う場所で死亡したとしても同時死亡になる?

もし複数の被相続人が別の場所で亡くなったとしても、死亡時刻が分からず死亡の先後が分からない場合は同時死亡として扱われます。
例えばAさんは交通事故で、Bさんは災害によって亡くなったとして、2人とも死亡時刻が分からない場合は同時死亡になります。

もしそれぞれ違う時間に死亡したことを証明したければ、異時死亡を証明することもできますが、よほど明確な反証でなければ難しいでしょう。十分な反証があれば、たとえ数分差であっても同時死亡を覆すことができるので、相続税が大きく変わるので同時死亡にしたくない場合など、検討してみてもいいでしょう。

まとめ

2人以上の人が事故や災害などでほとんど同時に亡くなり、死亡の先後が証明できない場合、同時死亡という扱いになります。
同時死亡でなければ、いったん相続人が相続することになりますが、同時死亡の場合はそれぞれの相続人に財産が相続されます。
亡くなる人が多いと相続税の計算が複雑になりやすいので、相続税がいくらになるか分からないという方は、税理士に相談するようにしましょう。