「相続税の所得比加算の特例」とは何でしょうか。もともとバブルの崩壊後作られた制度ですが、平成27年から法改正によって内容が少し変更されました。
では、相続税の所得比加算の特例とはもともとどんな制度なのでしょうか。また、今はどのような優遇を受けることができるのでしょうか。

相続税の所得比加算の特例とは?

所得比加算の特例とは、相続した財産を一定の期間内に売却して譲渡益が出た場合、本来ならそのまま譲渡税を支払うことになりますが、所得比加算の特例を適用することで、相続税で支払った金額の一部を控除として利用できるという制度です。

この特例を受けるためには、下記の要件を満たしている必要があります。

  • 売却するのが、遺贈や相続により財産を取得した本人であること
  • その財産を取得した人が相続税を支払っていること
  • 売却したのが、相続税の申告期限から3年以内であること

売却するのが、遺贈や相続により財産を取得した本人であること

遺贈とは、遺言によって財産を受け取ることです。遺贈や相続によって取得した財産を売却する時が対象となります。
また、遺贈もしくは相続によって財産を取得した本人が売却する、ということが条件になります。

その財産を取得した人が相続税を支払っていること

その本人が相続税を支払っていることが条件になります。
例えば、配偶者控除やその他控除などによって、相続税が発生せずしはらっていない場合は、この特例を適用することはできません。

売却したのが、相続税の申告期限から3年以内であること

また、相続税の申告期限は、相続が発生した日(被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月です。つまり、相続が発生してから3年10ヶ月以内には売却が完了している必要があります。

相続税の所得比加算の特例で控除されるのはどれくらい?

では実際に、相続税の所得比加算の特例を適用した場合、譲渡税はどれくらい控除されるのでしょうか。

譲渡税とは本来

売れた金額-購入た時の金額-手数料などの経費=譲渡益

この譲渡益に対してかかってきます。
手数料とは、例えばマンションなら不動産会社に支払う仲介手数料であたり、印紙税だったりします。これらの経費を引いて、純粋に得られる利益のことを譲渡益と言います。

では相続税の所得比加算の特例を適用した場合はどのように変わるのでしょうか。
相続税の所得比加算の特例を適用すると、

売れた金額-購入た時の金額-手数料などの経費-相続税で支払った一部

に対して譲渡税がかかることになります。

相続税で支払った一部とは

では相続税で支払った一部とはどのように計算されるのでしょうか。
計算式は下記の通りです。

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価格の合計額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)

分かりにくいので1つずつ見ていきましょう。

「その者の相続税額」とは、相続の時に納付した相続税額のことです。相続税全体ではなく、あくまでその人が払った相続税の金額になります。

「その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価格の合計額」とは、今回売却する財産の、相続税計算をした時の評価額のことです。

「その者の相続税の課税価格」とは、実際に相続した金額ではなく、課税対象になった金額のことです。計算方法は一言では説明できないので省きますが、相続税の申告書に記載されているので、そちらを参照しましょう。

「その者の債務控除額」とは、相続税の計算をする際に控除した、葬儀費用や被相続人の債務のことです。

ではもう一度分かりやすい言葉で表現すると、

支払った相続税額×売却する財産の評価額÷(相続税の課税価格+葬儀費用や債務)

となります。
計算が難しい、という方は、税理士に相談してみるのがおすすめです。

相続税の所得比加算の特例を適用したケース例

では実際に、相続税の所得比加算の特例を適用したら、譲渡税がどのくらい減額されるのか、例を見てみましょう。

例えばAさんが相続税評価額5,000万円の土地と現金5,000万円を相続したとして、相続税が1,000万円だったとします。
相続した土地は、亡くなったお父様が亡くなる5年前に3,000万円で購入したものとします。
相続して2年後に売却し、4,500万円で売却したとします。手数料などの経費は500万円です。

特例を適用しなかった場合にかかる譲渡益は、
5,000万円-(3,000万円+500万円)=1,000万円
となり、譲渡税は、
1,000万円×20.315%で、約203万円となります。

これを、相続税の所得比加算の特例を適用した場合、
1,000万円×5,000万円÷(1億円+500)=4,761,904円
(※葬儀費用や債務が500万円だったとして計算しています。)
に対して譲渡税がかかってくるので、4,761,904円×20.315%で、約97万円となります。

適用する前と後で、100万円近く節税できていますね。
金額が大きくなればなるほど、節税効果も大きくなるので、相続したあと売却を考えている方は期限内に売却し、節税するのがおすすめです。

まとめ

相続税の所得比加算の特例とは、相続した財産を一定期間内に売却した際、本来支払うべき譲渡税が控除される特例です。
特に土地などは金額が大きくなりやすいので、控除される金額も大きくなります。
ただ、相続が発生してから3年10ヶ月以内に売却しなければこの特例を適用することができないので、もし売却を考えている方は早めに検討するのがおすすめです。