相続した遺産が現金や預金の場合、そのまま相続税や所得税の支払いにあてられますが、骨董品や美術品の場合、なかなか買い手が見つからず、現金化するのが難しいものもありますよね。そんな方は遺産を寄付することで、相続税や所得税を減額することができます。
もちろん、現金や株式を寄付することも可能で、兄弟間で相続争いしたくない、どのみち相続税を支払うなら社会貢献したい、という目的で遺産を寄付される方もいます。
では、遺産を寄付したらどれくらい相続税が減額されるのでしょうか。また、寄附金控除を受けるためには何か条件があるのでしょうか。
寄附金控除とは
寄附金控除とは、相続した遺産を国や公共団体に寄付することで、その分相続税や所得税の課税対象金額を下げ、税金を安くしてもらう控除のことです。
例えば遺産が1億円あったとします。普通であれば、この1億円に対して相続税や所得税がかかってきます(詳しく言うと基礎控除などを利用して1億円全額に対して相続税がかかるわけではありません)。しかしこのうち5,000万円を寄付したとしたら、残りの5,000万円に対して所得税がかかるということになります。
どっちみち支払うお金なら、節税対策にはならなそう、と思われるかもしれませんが、遺産の中には絵画などの美術品、骨董品などなかなか買い手が見つからず現金化しづらいものもあります。また、相続争いを避けたい、という方も寄付をされることがあります。では寄付金控除では、どれくらい相続税や所得税を控除してもらえるのでしょうか。
寄付金控除で控除される金額は?
では寄付をしたら、具体的にどれくらい控除されるのでしょうか。
相続税
相続税は、下記の金額が減額されます。
寄付した金額×相続税率×1.021
この金額を、相続税として支払う金額から減額します。
所得税
所得税は、下記の金額が減額されます。
(寄付した金額−2,000円)×所得税率×1.021
この金額を、本来支払う所得税金額から減額します。ただし、所得税については上限があり、所得総額の40%までしか対象になりません。所得総額が1,000万円の場合、400万円を超える寄付は対象にはならないので注意しましょう。
住民税
住民税には基礎控除と特別控除があります。
基礎控除では、
(寄付金額−2,000円)×10%
が控除されることになります。ただし、所得総額の10%を超える寄付は対象になりません。
特別控除では、
(寄付金額−2,000円)×(90%−所得税率×1.021)
この金額が控除されます。
寄付金控除を受けるための条件
寄付金控除を受けるためには、いくつか条件があります。
1.相続人の意思で寄付していること
相続税、所得税、住民税の控除を受けるためには、相続人本人の意思で寄付していることが条件になります。例えば遺言書に寄付することが指定されていたり、寄付先と死因贈与契約を締結しているような、被相続人の意思で寄付している場合、相続税の控除は受けられますが、所得税や住民税の控除を受けることができません。
それでも相続税の控除は受けることができるので、被相続人の意思で寄付した場合でも控除は受けるようにしましょう。
2.相続税の申告までに寄付を済ませていること
寄付金控除を受けるためには、相続税の申告までに寄付を済ませている必要があります。相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月です。その10ヶ月の間に寄付を済ませておきましょう。
また、相続税の手続きで寄付をしたということを証明しなければならないので、寄付の際は証明書を発行してもらうようにしましょう。
3.現金に換えて寄付していないこと
寄付をする際に、株式や不動産、美術品などを一度現金に換えてから寄付する方もいらっしゃいます。しかし、この現金に換えるという行為によって「相続した遺産」から「相続人の持ち物」に変わってしまい、「遺産を寄付した」ことにはならなくなってしまいます。
現金で寄付したほうがいいだろう、という思いやりからであっても、一度現金にしてしまうと、遺産を寄付したとは認められず、寄付金控除を受けることができなくなってしまいます。
寄付をする際は、現金化せずそのまま寄付するようにしましょう。
4.対象の団体に寄付していること
寄付金控除を受けるためには、どこに寄付してもいいというわけではありません。
対象となる団体に寄付していないと寄付金控除も受けられないので注意しましょう。対象となる団体は下記のとおりです。
国や地方公共団体
国や地方公共団体への寄付は、対象になります。このうち、地方自治体へ寄付した場合は、住民税の特別控除も受けることができます。
認定NPO法人や特定公益増進法人等
認定NPO法人とは、NPO法人の中でも設立年数や寄付実績などの条件を満たした団体しかなれないものです。きちんとした実績があるので、お金が無駄になるようなことはありません。
団体名としては下記のようなところがあります。
- 日本赤十字社
- 財団法人日本ユニセフ協会
- 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
- 公益財団法人がん研究会
- グリーンピース
- チャイルド・ファンド・ジャパン
- 財団法人 日本フォスター・プラン協会
ふるさと納税は寄付になる?
節税対策のためにふるさと納税を利用する人が増えていますが、相続税に関してもふるさと納税は節税効果があるのでしょうか。
ふるさと納税は、上記の地方公共団体への寄付に該当するため、寄付金控除の対象となります。
相続税の寄付金控除を受けることができ、所得税や住民税の寄付金控除も併用することができます。
ただ、ふるさと納税の際も、
相続税の申告期間までに納税していること
遺言ではなく相続人に意思で納税していること
が条件になります。
所得税や住民税の寄付金控除を受ける際は確定申告が必要になるので、忘れないようにしましょう。
まとめ
遺産を相続した際、節税対策を兼ねて寄付をする、という方もいらっしゃいます。
寄付をすることで、相続税だけでなく所得税や住民税の寄付金控除を受けられる場合があり、ふるさと納税の場合はお礼品も受け取ることができます。
ただ、寄付金控除を受けるためには、対象の団体に寄付しなければならないので、事前にしっかり確認するようにしましょう。