遺産を相続したら、必ず相続税を納税しなければならない、と思っている方は多いですが、実は控除を利用することで納税額が減額されたり、0円になることがあるんです。最も利用されているのが基礎控除で、基礎控除を利用することで3,600万円+(600万円×法定相続人の数)の金額は非課税対象にすることができます。その他にも、配偶者控除というものがあり、相続人が配偶者である場合、1億6,000万円まで(実際の詳しい計算は後述します)は非課税対象とすることができます。
配偶者控除が認められる理由
ではどうして配偶者は優遇されるのでしょうか。それには大きく分けて2つ理由があります。
1つ目は、被相続人の子供や孫が相続した場合に比べて、次の相続までの期間が短く、1つの財産に対する負担が大きくなってしまうためです。例えば配偶者と子供で同じ金額を相続したとして、その後配偶者が亡くなった場合、子供はまた相続を受けることになり、再度相続税を支払うことになります。そうすると、1つの財産に対しての税金負担が大きくなってしまうので、配偶者は控除が認められているんですね。
2つ目の理由は、配偶者も被相続人の財産を形成する上で協力もしていることを考慮した上で、配偶者のその後の生活を保障するためです。
以上2つの理由から、配偶者は配偶者控除が認められています。
配偶者控除を受けるための条件
配偶者控除を受けるためには、3つの条件を満たしている必要があります。
1.戸籍上の配偶者であること
いわゆる籍は入れていない内縁関係だと、配偶者控除を受けることはできません。最近では籍を入れないでパートナーとして連れ添う形も増えていますが、その場合残念ながら条件は満たしていません。言い換えれば、別居中や離婚調停中であっても、戸籍上で配偶者であれば配偶者控除を受けることができます。また、婚姻期間が1ヶ月であろうと何十年であろうと特に関係はありません。
2.相続税の申告までに遺産分割が完了していること
相続税は、実際に誰がいくら相続するかを決めないと、税金の計算もすることができません。配偶者控除の計算も、受け取る遺産の金額によって変わってくるので、遺産分割が完了していないと計算することができません。そのため、相続税の申告までに、遺産分割が完了していて、実際いくら相続するのかはっきりした状態である必要があります。
3.相続税の申告書を提出していること
相続をした場合、例え控除を利用して相続税が0円になったとしても、申告書は税務署に提出する必要があります。というのも、税務署としては、書類がないと配偶者控除を利用して0円になったのか、何か申告漏れなのか等把握することができないからです。
基礎控除であれば、控除を利用した結果課税財産が0円になっても申告しなくて大丈夫ですが、配偶者控除の場合は必ず申告書を提出するようにしましょう。
配偶者控除の使い方
配偶者控除の使い方はとてもシンプルで、相続税の申告書に税額軽減の明細を記載するだけです。相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内とされていますが、もしその間に遺産分割が終わっていない場合は、一旦法定相続分(法律によって、各相続人が受け取る遺産の取り分を決めたもの)に基づき申告しておき、その後3年以内に「更正の請求」をすることで、配偶者控除を利用することができます。その際、もし払いすぎていた相続税があれば、還付されることになります。また、配偶者控除を利用する際は下記のものが必要になります。
・戸籍謄本
・相続税の申告書
・遺言書のコピー、または遺産分割協議書のコピー
・印鑑証明書(遺産分割協議書を提出する場合のみ)
配偶者控除の計算方法
それでは実際に、配偶者控除を利用すると相続税がどのくらい減額されるのか、いくつか具体例を挙げて見ていきましょう。
①まずは遺産を全て計算し(負債がある場合はマイナスして計算し)、遺産総額を計算しておきます。遺産総額から、まずは基礎控除である3,600万円+(600万円×法定相続人の数)を引きます。この法定相続人とは、相続を放棄した人の数も含めることができます。
②基礎控除を引いた課税総額が分かったら、各相続人が法定相続分で相続したものとして、仮の相続税を計算します。この仮の相続税を全員分足したものが相続税の総額になります。
③相続税の総額が分かったら、最後は実際に各相続人が受け取る遺産の割合で、相続税を按分していきます。その後、配偶者である場合は配偶者控除を利用して、相続税を計算し直します。
例1.遺産が1億あり、配偶者と子供1人が相続する場合
①課税総額の計算
1億円−(3,600万円+600万円×2)=5,800万円
②相続税の総額を割り出す
配偶者と子供、それぞれの取り分=5,800万円×1/2=2,900万円
1人あたりの相続税=2,900万円×15%-50万円=385万円
相続税の総額=385万円×2=770万円
③各相続人の相続税を割り出す
配偶者→770万×2,900万円÷5,800万円=385万円
取得額1億6,000万円未満のため、配偶者控除を利用して相続税は0円に
子供→770万×2,900万円÷5,800万円=385万円
配偶者は配偶者控除を利用して相続税が0円なのに対し、子供は385万円支払う必要があります。
例2.遺産が5億円、配偶者と子供2人が相続する場合
①課税総額の計算
5億円−(3,600万円+600万円×3)=4億4,600万円
②相続税の総額を割り出す
配偶者と子供2人のそれぞれの取り分=配偶者が1/2、子供がそれぞ1/4=配偶者は2億2,300万円、子供はそれぞれ1億1,150万円
1人あたりの相続税=配偶者:2億2,300万円×45%−2,700万円=7,335万円、子供1人:1億1,150万円×40%−1,700万円=2,760万円
相続税の総額2億2,300万円+2,760万円+2,760万円=2億7,820万円
③各相続人の相続税を割り出す
配偶者→2億7,820万円×2億2,300万円÷4億4,600万円=1億3,910万円
法定相続分である2億2,300万円までは配偶者控除を利用できるので、相続税は0円に
子供1人あたり→2億7,820万円×1億1,150万円÷4億4,600万円=6,955万円
配偶者は相続税が0円なのに対し、子供は1人あたり6,955万円支払う必要があります。金額が大きくなると、より差がはっきりと分かりますね。
ポイントは法定相続分までしか相続しないかどうか
上記の計算を見ていると、配偶者は基本的に相続税がかからないように見えるので、税金対策としてとりあえず配偶者が全部受け取ったらいいのではないか、と思う方もいらっしゃいますが、ポイントは法定相続分までしか控除されないということです。そのため、とりあえず全部配偶者が、と安易に決めてしまうと、かえって税金が高くなることもあるので、うまく税金対策したい方は税理士に相談してみるのがおすすめです。
配偶者は贈与税についても優遇されます
相続税において配偶者はとても優遇されますが、覚えておきたいのは贈与税についても配偶者は優遇されるということです。婚姻関係が20年以上あることが条件になってきますが、もし20年以上経ってから遺産を贈与する場合、居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金は最大2,000万円まで控除ができることになっています。同じ配偶者からは一生に一度しか適用を受けられませんし、投資用ではなくその後もその不動産に住むことが条件になりますが、不動産を購入していたりその資金を貯めている方にはとても使える制度です。
まとめ
いかがでしたか。配偶者は相続において税金の面でとても優遇されていることが分かりましたでしょうか。婚姻関係の年数にも制限がないですし、前もって何か準備しなければならない物もありません。
計算が少し複雑ですが、とりあえずどれくらい控除されるのか知りたい、という方はお気軽にお問い合わせくださいませ。