日本の相続税は税率が高い、というイメージが強い方は多いですよね。相続しても半分は税金で持っていかれる、と思っている方もいらっしゃいます。
では日本の相続税率はどれくらいなのでしょうか。最高税率はいくらなのでしょうか。
海外の相続税率と比べてどれくらい高いかなど、見ていきましょう。

日本は相続税率が高い?

日本の最高相続税率は、平成25年の法改正により、55%に引き上げられました。もちろん最高税率なので、遺産総額によってはもっと低くなりますが、課税対象の遺産総額が6億円を超える場合は税率が55%になっています。
ではこの55%は、海外から見ても高いのでしょうか。

実はアメリカの最高相続税率は40%と日本より低くなっています。さらに、基礎控除額が6億円までとなっているので、ほとんどの人が相続税とは無縁です。

日本の次に最高税率が高いのがフランスです。相続金額に応じて5%~45%の相続税が課せられますが、配偶者は全額免除されます。

イギリスは相続税の税率が一律40%となっています。遺産総額が高くなるほど税率が上がる日本やアメリカと比べて、遺産総額が低い人ほど相対的に税金の負担が大きくなってしまいます。

ドイツは相続税率が7%~30%と日本に比べて大幅に低く、基礎控除額も配偶者は約6,500万円、それ以外は約5,200万円と高い金額のため、日本よりも相続税の負担が少ないと言えるでしょう。

このように見ていくと、遺産の金額によってはイギリスが相続税の負担が大きくなりますが、世界的に見ても最高税率は日本が1番高いと言えるでしょう。

財産の55%を税金で支払うわけではない

では最高税率55%と聞くと、相続した財産の55%は税金として納めなければならないのかというと、そうではありません。
相続税率と、相続税負担率、というのはまた別です。

例えば、日本にも基礎控除は用意されています。
法定相続人の数にもよりますが、3,000万円+600万円×法定相続人の数、の分は基礎控除として全員が控除されます。
この基礎控除額内であれば、相続税の申告もする必要はありません。

また、配偶者は1億6,000万円まで、もしくは法定相続分までであれば相続税は免除されます。
法定相続分とは、法律によって定められた遺産の取り分ですが、遺言書などで指定がない限り、この法定相続分に基づいて遺産を分配することになります。その場合、配偶者は相続する遺産が1億6,000万円を超えていても、相続税を払う必要はありません。

さらに、被相続人と同居していた家を相続する場合も、特例によって控除が用意されています。

このように、様々な控除を利用することができるので、相続したら財産の55%を税金で支払う、ということはありません。控除を利用した後、最終的に課税対象となる金額を割り出し、そこに税率をかけることになります。実際に相続税を払っている人は全体の1割にも満たないと言われていいます。

相続税率が高いからといって、相続税の負担が大きいかどうかは、用意されている控除などによって大きく左右するということなんですね。

相続税がない国

世界には、相続税がない国、または廃止された国もあります。

  • シンガポール(2008年に廃止)
  • 香港(2006年に廃止)
  • 中国
  • マレーシア
  • タイ
  • スウェーデン(2005年に廃止)
  • イタリア(4親等を超える者への相続のみ課税)
  • モナコ
  • オーストラリア
  • ニュージーランド
  • ロシア

富裕層が海外に出ていくのを防ぐため、あるいは富裕層を海外から呼び寄せるために相続税を廃止した国もあります。
中でもシンガポールは、世界中の富裕層から人気があり、大きな発展を遂げた国です。
日本からも、シンガポールに移住する富裕層が多いですが、日本の場合、相続する人が日本在住だと結局相続税がかかってしまうので、相続税をなくすためには相続人も一緒に海外に移住する必要があります。

日本の相続税率が高くなった理由

では日本はなぜ相続税率が高いのでしょうか。
相続税率が高くなった背景には、税率を上げやすいということが挙げられます。消費税は国民全員に関わってくるため、簡単に引き上げることはできません。また、たばこ税や酒税は所得が低い人ほど、相対的に負担が大きくなってしまいます。相続税であれば、遺産が多い人からたくさん税金を取る、という、所得税と同じシステムで税率を上げることができます。そうすることで、所得格差を埋めることもできます。

ただ、相続税率が高いということは、海外から富裕層が移住しにくくなります。また、日本から出ていく人も増えるというリスクもあります。富裕層はお金を持っているだけでなく、人材という観点から見ても優秀であることが多いので、むやみに相続税率を上げるべきではない、という意見もたくさんあります。

贈与を利用して相続税に負担を減らす方法

もともと富裕層でお金を持っている方や、将来子供たちの相続税負担を減らしたい、と考えている方は、生前にできる相続税対策を探しているでしょう。
実は相続以外にも、生前贈与、というものがありますが、生前贈与にも贈与税があり、贈与された金額が大きければ贈与税の負担が大きくなり、かえって支払う税金が高くなってしまうこともあります。

贈与税の最高税率は、相続税の最高税率と同じで55%です。しかも相続税は課税対象の遺産が6億を超えたら55%なのに対し、贈与税は贈与額4,500万円をこえたら55%かかってしまいます。
それだけ聞くと、贈与税のほうが高くつき、贈与するとかえって税金が高くなってしまうように思えます。

しかし、贈与税は110万円までは非課税です。しかも1年ごとに計算するので、毎年110万円までであれば、贈与税はかからないんです。
そのため、毎年毎年、110万円以内におさえて贈与をすれば、例えば20年で2,200万円までは非課税で贈与することができます。
子供や孫に相続税の負担をかけたくない、できるだけ相続税の負担を軽くしたい、という方は生前に少しずつ贈与しておくのがおすすめです。

まとめ

日本の相続税率は、最高55%と、海外から見てもとても高く設定されています。そのため、相続税のないシンガポールや香港に移住する富裕層も多くいます。
ただ、55%だからといって、遺産総額にそのまま55%をかけるわけではありません。様々な控除をを利用し、課税対象となる遺産に55%をかけて計算しますし、配偶者は1億6,000万円までであれば相続税は免除されます。
そのため、実際に55%も相続税を支払っている人はとても少ないですが、もし遺産が多く相続税が高くつきそうという方は、生前贈与がおすすめです。
贈与は毎年110万円までであれば非課税となっています。10年20年と、毎年少しずつ贈与していけば、将来の相続税の負担を減らすことができます。
他にも相続税を抑える節税対策はいくつかあるので、節税対策を考えている方は一度税理士に相談してみるのがおすすめです。