相続税の支払いが難しい時、延納という制度が用意されています。
延納を利用すれば、一括での支払いではなく分割で相続税を支払うことができます。
しかし、延納はいわば国から借金をして、毎月返済するのと同じ状態です。国も、万が一返済が滞ったり返済ができませんと言われた時のために、担保を確保しておきたい、ということで、延納の申請をする際は担保を提供しなければなりません。
では、担保には何を提供するのがいいのでしょうか。
財産ならなんでもいい、というわけではなく、担保にできる財産と担保にできない財産があります。
そこで、相続税を延納する際の、担保とする財産は何があるか見ていきましょう。
延納とは?国の許可が必要
延納とは、相続税の納税が一括でできない人のために用意された制度で、相続税を分割で支払うことができます。
財産を相続したのだから、そこから支払えばいいのではないか、と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、財産の中には預金や現金だけでなく、美術品や芸術品、不動産、土地などすぐには現金化できないものや、できれば現金化せずにそのまま保有したいものがある場合もあります。
そのような場合、毎年分割で相続税を支払う延納が用意されています。
ただ、誰でもこの制度を利用できるわけではなく、本当に現金が足りず相続税の支払いが難しい、ということをしっかり証明できなければなりませんし、国から許可がおりない限り利用することはできません。
また万が一支払えなくなった時のために、担保を提供する必要があります。この担保が不適切と審査されると、延納が利用できなくなってしまうので、担保に何を提供するかはとても大切です。
担保には優先順位がある?
担保として提供する財産には、国が定めている優先順位があります。
1.国債、地方債
2.社債、その他の有価証券
3.土地
4.建物、立木、登記される船舶など
5.鉄道財団、工場財団など
6.税務署長が確実と認める保証人の保証
優先順位の高い国債や有価証券などは、審査の際に金額を算出しやすいというメリットがあるうえ、比較的すぐに現金化しやすいため、担保として好まれます。
逆に土地や建物などは、すぐに売却するのが難しかったり、金額が変動しやすいため、優先順位が低くなってしまいます。
優先順位が高いほうが、延納の審査に通りやすくなり、低いほど審査に通る確率は下がってしまいます。
担保にできない財産もある?
担保には優先順位がありますが、担保にできない財産というのもあります。
1.共同相続人の間で所有権を争っているもの
相続人が複数人して、その間で所有権を争っているものは担保にすることはできません。
例えば土地です。預金や現金は相続人同士で分けやすいですが、土地売却しない限り均等に分けるのは難しいものです。そのため、所有権をめぐって相続人同士で争いが起こることも、珍しいことではありません。
そのような、所有権を争っているものが、当然ながら担保にすることはできません。
2.共有不動産で、共有者全員から担保の承認が得られていないもの
相続人が複数いて、相続した不動産を共有している場合もありますよね。
共有不動産の場合、自分の持ち分だけを担保にするという方法もなくはないですが、いざ現金化しようとした際、とても難しかったり実際より不利な条件で売却しなければならないことが多いです。
そのため、共有不動産を担保にする場合は、共有者全員から担保の承認が得られているということが条件になります。
3.売却できそうにないもの
例えば土地を担保にしたいけど、その土地に面した道路がないようなものは、近隣の住人以外から買い手がつくようなことはほとんどなく、売却が難しいと考えられます。
こういった、売却ができそうにないものは、担保にできません。
4.抵当権を設定できない不動産
土地や建物などの不動産は担保にすることができますが、抵当権を設定できない不動産は担保にすることができません。
抵当権を設定できないということは、もし国が担保として確保しておいても、抵当権を持っている所有権が売却する権利を持っていることになります。
そのため、抵当権を設定できない不動産は、担保にすることができません。
5.担保価値が低いもの
担保にするには、延納する金額プラス、3年分の年利を足したものと同じくらいの価値があるものでないといけません。
例えば、100万円を延納する場合、3年分の利子税額が10万円として、110万円の価値があるものでないと担保にすることはできません。
ただ、担保には掛け目というものがあり、この掛け目を乗じた金額が延納する金額+3年分の利子税額に相当しないといけません。
掛け目は下記のように定められています。
国 債 :額面
有価証券 :時価の8割以内かつ予想される価格変動を考慮した額
土 地 :時価の8割以内で適当と認める額
建 物 :時価の7割以内で担保提供期間中に予想される価値の減耗等を考慮した額
保証人の保証:滞納となった場合にその保証人から徴収することができると見込まれる額
例えば、国債であれば額面通りですが、土地であれば8割をかけなければなりません。
どういうことかと言いますと、先ほどの例で、100万円を延納する場合、110万円の価値があるものでないと担保にすることができません。
そこで、土地を担保にする場合、110万円分の土地を持っていれば担保にできるのかというとそういうわけでなく、担保財産額×0.8>110万円とならないといけないので、土地の価格が最低でも137.5万円以上でなければなりません。
※この利子税額は例であり、実際はもう少し複雑な計算が必要になります。実際の利子税額とは少し異なります。
6.担保の保有期間が短いもの
延納期間は人それぞれ違いますが、その延納期間より、担保の保有期間が短いものは担保にすることができません。
例えば、車や事業用の機械などは、不動産などと比べて担保の保有期間が短く、担保にしてからすぐに保有期間が切れてしまうものもあります。
国としては、いざという時のためにその担保にしたものを売却できる状態にないと意味がないので、途中で担保の保有期間が切れてしまててゃ意味がありません。
ということで、担保にするものの担保の保有期間はきちんと確認するようにしましょう。
まとめ
相続税の支払いがすぐにできない場合は、延納という相続税を分割で支払う制度が用意されています。
ただ、延納は誰でも利用できるわけではなく、国から許可をもらわなければ利用することができません。
延納の申請をする際は、万が一支払いができなくなった時のために担保を提供しなければなりません。
担保には優先順位があり、国債や有価証券などのすぐに換金しやすいものは優先順位が高くなり、それらを担保にしたほうが審査に通りやすくなります。
また、担保にできないものもあるので、注意が必要です。
何を担保にしていいか分からない、どれを担保にしたら、審査に通りやすくなるか分からない、という方は、一度税理士に相談してみるのがおすすめです。